1982年(昭和57年)


兼好の出家と和歌−『兼好自撰家集』の一首から
語学文学20号1982年2月28日p13〜21
 兼好の出家の動機について従来の諸説を検討した上、新たに出家後修学院篭居時の1首から、政治に関わる官人としての生活のわずらわしさを厭い、西行を始めとする法体歌人達の生活に憧れたことを推測した。但しそうした作家の内面を探ることは歴史的事実を推測することとは性格が異なり、事実の推定から成り立つ伝記研究とは区別しつつ追究すべきものであることを言い添えた。

『小島の口ずさみ』の成立
人文論究42号1982年3月1日p1〜12
 二条良基の紀行文『小島の口ずさみ』につき、その成立が従来考えられていたように文和2年(1353)南朝に京都を奪われた後光嚴天皇が美濃の小島に逃れていた時ではなく、帰京した同年9月以後12月以前であったこと、またその執筆動機が、帰京後も関白に在任し続けるために、自らの北朝への奉仕の様を天皇や将軍にアピールするという現実的なものであったことを、内容と史実との比較などから推測した。